

「最近、周りに木を使ったものが多くなったよね」、「お父さんの会社も三年前に建て替えたとき、木をたくさん使ったんだって」。
そして、「みんなで取り組んできて本当によかった」と結ぶ。
私はその計画書に「洗練されていない」との印象と、感銘を同時に覚えた。
これまでの行政文書は、美麗な字句と数字と図表が羅列されているものが多かった。
読んだ人は、頭に情報は入るが、温かみのなさと「この政策の影響を受ける人々はどのようになるのか」との不安を常に抱くはずだ。
だが、この計画書では、文章の行間から政策を分かってもらい、自分や次の世代のために社会を変えようと、県の担当者と市民らが一つひとつの言葉を選び、知恵を絞った姿が脳裏に浮かぶ。
事実、そのようにして執筆されたという。
「私たちは石油を大量に使い、地球環境を汚してきた加害者の側面があります。
この責任を自覚し、次の世代のことに思いを寄せるならば、温暖化防止のために何かを始めるとの考えに誰もが合意できるはずです。
意見や見方は異なっても、この計画が合意をさらに深めるきっかけになれば」と岡本氏は語る。
そして「素人が作り上げた計画は、弱みと同時に強みも持ちます。
普通の視線から政策を打ち出したことで、プロが作る全国画一の対策と違う形になりました」と誇らしげだ。
和歌山県は教育現場でエネルギー使用を削減した場合、その削減によって得られた節約分の費用の一部を学校が使える削減プログラムを二○○三年から始めた。
三重県は県内の企業と合同で地域の排出権取引市場の創設を検討し、北海道は地域炭素税の導入を模索する。
宮城県は県内の地域ごとの合意を集める「脱・二酸化炭素連邦みやぎ」構想を打ち上げた。
各地で、その場所の特性にあった温暖化対策を模索する動きが始まっている。
地方自治体は住民と身近に接するために、地域の実情に即した温暖化防止対策を講ずることができる。
国は、省庁間の権限の壁などで踏み出せない場面も多い。
一方で、温室効果ガスの削減策は、地方自治体の行える権限の範囲を超える場合がある。
温暖化対策を地方自治体レベルで行うことについて、現場には戸惑いもある。
二○○二年五月に環境省が所管する改正地球温暖化対策推進法が施行され、地方自治体の役割が強められた。
自治体には、自らの事業における温室効果ガスの削減、所管する地域から出る温室効果ガスの削減、地域住民や事業者の活動に対する情報提供や支援との三つの役割が課せられた。
そして同法は、各自治体は自らの事業や公営機関の温室効果ガスの削減を行う「実行計画」と、地域全体のガス削減のための「地域推進計画」という二種類の計画を策定するように求めている。
環境省地球温暖化対策課の集計によると、二○○三年一○月時点で、全都道府県と一○五○の市町村が実行計画を作った。
しかし、地域推進計画は三九都道府県、四四市町村しかできていない。
全国の市町村数は約三○○○であるため、その割合はわずかだ。
推進計画の作成はなぜ遅れるのか。
温暖化対策の情報提供を行っている全国地球温暖化防止活動推進センターの事務局長中村裕氏は「計画作りは、多くの自治体にとってかなり大変な作業です」と理由を説明する。
計画を作るには地域のCO2排出量の実態を把握しなければならない。
この基になる化石燃料の消費量、電力の使用量などの統計は国レベルでは簡単にそろう。
しかし、地方の市町村が調べるのは簡単ではない。
地域にエネルギーを供給する電力、ガス、石油会社それぞれから情報の提供を求めなければならない。
また、各地域の自動車の保有台数やその使用形態も、完全に把握するのは難しい。
そして、排出原因別の時系列データがなければ、計画も立てられない。
また、実際の削減対策作りも難しい。
東京都や長野県のように具体的な規制措置にまで踏み出すことは、市町村レベルの条例では困難だ。
地方自治体は行財政改革の流れの中で経費と人員の削減に直面している。
そして、ゴミ、水質浄化、大気汚染など、即座に対応しなければならない環境問題が山積する。
そうした状況のため、今を生活する住民に直接の被害が出ない温室効果ガス問題を、各自治体があと回しにする傾向もあるようだ。
ある地方自治体は推進計画を作成中だが、「優れた計画を作ろうと調査するほど難しくなる」と担当者は語る。
この自治体でも国と同様に民生・運輸部門のCO2の排出量が急増する一方で、その原因が把握しきれない。
そして、行政が個人の生活を過度に規制することにためらいがあるという。
地方の地球温暖化対策の実際の姿を眺めてみる。
神奈川県鎌倉市は、一九九六年に市内から出るCO2の排出量を二○一○年までに二○%削減する目標を決めた。
日本の自治体で初めての数値目標だ。
ただ、厳密に実施するというよりも、市民の温暖化問題への関心を高めようというPRの意味が強かった。
環境問題で世界各国の地方自治体が情報交換、協力をする国際環境自治体(ICLEI)という組織がある。
世界で六四カ国、四五二の自治体が加盟。
日本では三七自治体が加盟している。
この団体が数値目標として九○年比で二○%のCO2を削減する数値目標を設定しようとの「気候変動・都市キャンペーン」を九○年代初頭から行ったことに呼応した。
その削減目標は二○○三年時点で「残念ながら達成は難しくなりました」(鎌倉市環境政「東京都の行政能力の高さに敬意を持ちますし、長野県の民主的な決定方法も立派と思います。
ですが、いずれも、ある政策の結果、どの程度のCO2が減ると突き詰めて計画したとは思えません。
派手な政策や政治家のパフォーマンスは目を引きますが、本当に責任を持って温室効果ガスを減らすならば、地に足をつけた削減策を積み重ねる必要があります。
そして、積み重ねても、なかなかCO2は減りそうにないのが実情です」。
策課の天野浩尚氏)という。
同市は地球温暖化問題について、市民の啓発活動を進め、意見を集めた。
しかし、市民や同市の環境審議会からは、強制的なCO2排出の規制措置を求める意見は出なかったという。
鎌倉市は住民の環境意識が高い。
鶴岡八幡宮の丘の裏の御谷の森を再開発から守ろうという市民の六○年代の運動が契機となって、全国に「市民トラスト運動」と呼ばれる住民主導型の環境保全活動が広がった。
だが、CO2の抑制では、市民の問に規制に向けたエネルギーは広がらなかった。
同市によると、二○○一年度のCO2の排出量は推計で九二年比四・四%の増加。
産業部門の排出量はほぼ横ばいだが、民生は家庭、業務とも約二割増。
運輸部門も同五・五%増加となっている。
国の排出構造とよく似ている。
ただゴミの削減努力が実り、廃棄物の焼却から出るCO2では同二七・五%減の効果があった。
同市ではゴミの処分能力不足の懸念が生じたため、ゴミの減量を九○年代から行っていた。
ゴミの分別を他市よりも細かく二○種類に分けるなど詳細にし、市民への広報活動やリサイクルの強化、そして枝葉を堆肥にするなどの努力の集積が実った。
市民の側も、積極的に呼応した。
ただ、廃棄物からのCO2排出量は同市全体の約四%にすぎない。
「市町村が温室効果ガスを確実にコントロールできるのは、ゴミの分野だけです」(環境政策課の天野氏)という。
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